前回の記事では、私のイップス体験を踏まえて、
イップスのメカニズムについてお話しました。
今回は、実際にイップスに取り組むために必要なこと、
取り組み方などをご紹介していきます。
もし、前回の記事を読んでいなければ、
まずそちらから参照していただけると話の流れが理解できると思います。
まず、イップスに取り組むために必要な理解として、
メンタル面とフィジカル面のアプローチ方法について共有していきます。
一般的に推奨されている情報に補足を加えながら
説明するとわかりやすいかと思いました。
イップスであることを自覚する
イップスと向き合っていく前に、
まずは自分がイップスであることを自覚することが大切です
と言いたいところですが、絶対とは言いません。
自分がイップスであると認めるのは辛いかもしれません。
イップスはプロの選手でも起こるものですが、
アスリートとしてのプライドを考えると勇気のいることです。
イップスと自覚することで楽になることもあれば、
逆に病名がつけられたような感覚でネガティブになってしまう場合もあるからです。
無理に受け入れるのではなく、自然と気づくという形がいいと思います。
前編でもお話しましたが、イップスは決して悪いものではないと考えています。
症状や問題として捉えるのではなく、ひとつの現象として捉え、
自分が変化するきっかけとして取り組むことで、新しい自分が見えてきます。
理解していただけたら、きっと前向きに取り組めるようになると思っています。
[メンタル面]イップスの恐れから解放される
イップスの影響が心理的な防衛機能による萎縮によるのであれば、
メンタルケアもしくはメンタル強化を推奨されることが多いです。
イップスの原因としてメンタル・バランスの欠如を掲げる理由は、
イップスが起きるきっかけとして、例えば過去に起きた失敗や怪我、
チームメイトに迷惑をかけてしまった、
失敗が許されない過度な緊張状態の環境などが、
心のしこりや傷となってパフォーマンスに影響を及ぼしていると考えられています。
私の場合も、投球動作に入るまでの「一瞬の間」に
悪送球のイメージが頭に入ってきて萎縮するパターンを自覚していました。
過去に起こしたミスで傷ついた体験
(監督に怒鳴られる、チームメイトに迷惑をかけるなど)を
繰り返したくないという想いが引き金になっていました。
まず、メンタル面のアプローチによって見込める効果は、
緊張が和らぎ、ネガティブな意識にとらわれることなく、
伸び伸びと自然体でプレーできるようになることです。
いつもどおり練習で培った力を本番でも発揮することができるようになり、
イップスへの恐れから解放されます。
対応方法について、まず一般的に紹介されている
アプローチ方法にいくつか触れていきます。
忘れる?
「起きたことは過去の事だから、きっぱりと忘れる。」。
過去に起こした失敗、起こってしまったことは変えられません。
それはそれで受け止めて気持ちを整理し、きっぱりと忘れる。
嫌なイメージやネガティブな感情を引きずらないことで今に集中します。
もちろん、目の前のプレーに集中できれば忘れるに越したことはありません。
忘れる=「気にならなくなる」ということですが、
通常は記憶や気持ちに蓋をして「気にしなくしようとする」のです。
蓋をしてもまた開くことがあります。
だから、忘れようとしても忘れられなかったとしたら、
別の方法を探しましょう。
ポジティブに考える?
イップスになると考えがネガティブ(悲観的や後ろ向き)になってしまいます。
考えをポジティブ(楽観的や前向き)に変えることでイップスを克服します。
「今日は10回中2回失敗してしまった。」を「今日は10回中8回もできた。」というように。
「失敗したらどうしよう。」を「大丈夫!やればできる。」といったように。
ただし無理なポジティブ思考は禁物です。
ポジティブ思考は、ネガティブな側面から目を背けることではありません。
ネガティブな側面を無かった方のように抑圧すると、
かえって反動で苦しみを感じてしまいます。
また、本来の意図とは違った自己イメージを自分に植え付けることは、
自己矛盾によってかえって心身のバランスを崩すこともあります。
ポジティブ思考を身につけるためには、きちんと手順を踏む必要があります。
それから、練習の積み上げによって自信を養う場合
(「これだけ練習したのだから、きっとできる。」)は、
オーバーワークによる肩や肘の故障に十分気をつける必要があります。
つい自分を厳しく追い込んでしまうため、
身体への負担の歯止めが効かなくなってしまうからです。
それでも、いざ本番(試合あるいは守備練習)になると
身体が萎縮してしまうことがあります。
気をつけるポイントは、メンタル面で解放されたからと言って、
必ずしも投球動作が改善されるとは限らないということです。
イップスが神経伝達に影響が及んでいる場合、
メンタルがクリアになったからと言って
以前と同じ感覚でボールを投げられるとは限りません。
その場合は、ボールを投げる感覚(投球動作の連動性)を
新たに構築する必要が出てきます。
[フィジカル面]投球動作の再構築
イップスはメンタルの問題という認識が強いのですが、
私は身体的側面についても考える必要があると思っています。
私はフィジカルの専門ではありませんので、
ここでは対応策ではなく自身の体験について触れていきます。
私の場合は、イップスになってから特に手首と指先の感覚に
違和感を感じるようになりました。
変に力が入らなかったり、逆に硬直してしまったり。
指先についても、変にひっかかってしまったり、今度は逆に変に抜けてしまったり。
プレッシャーの有無に関わらず、明らかに感覚の違和感を感じるようになっていました。
私は、スナップスローやスローイングの矯正に取り組みましたが、
肩を故障してしまったため最後まで効果を感じられることはありませんでした。
フィジカル面で見直すポイントは、
主に投げ方の全体的な認識、投球動作の連動性です。
私たちの身体は、その都度環境に合わせて微妙に身体を調整しています。
自分の感覚と実際の動きの間に生まれたギャップをあらためて見直すことで、
イップスで生じた身体の変化に対応していきます。
私はメンタルが専門なので、
ここではメンタル面での取り組み方について、最後に紹介します。
イップスによる影響が「萎縮」であれ「神経伝達」であれ、
メンタルへの影響は大きいです。
大切なのはイップスへの恐れから解放されることです。
ビリーフから自由になる
イップスになると考えや視野が狭まってきます。
「今度は正確に投げなければならない。」
「もう二度と失敗は許されない。」
「暴投したら絶対に迷惑をかける。」
といったような考えを強く信じるようになります。
イップスの背後に隠れている
「~ねばならない。」「もし~したら~。」という思考(ビリーフ)が、
かえって緊張感と身体の硬直を促してしまうのです。
ベストなパフォーマンスが出せる状態は自然体であり、
意識が今この瞬間に集中していることです。
考えに執着していると自然体や集中から離れてしまいます。
ビリーフから解放されるためには、
ビリーフを書き出し問いかけをすることです。
考えに囚われることから解放されると、
イップスに対するストレスからも解放されます。
ビリーフから自由になるために気をつけることは、
いきなり考えをプラスに書き換えるのではなく、
まず考えから自由になる(ニュートラルな状態になる)ことです。
私の場合は、ビリーフに取り組んだ結果、
あらためて自分の身体の状態に繊細に気づけるようになると、
自分の身体の感覚が以前と違っていることがよくわかりました。
確かに今までの身体の使い方やイメージでは投げられないと思いました。
おそらく、私の場合はイップスによって
そこまで身体が変化していたのだろうと思っています。
現在では、イップスに対する恐れも軽減し、
自分自身とうまくやれるようになりました。
ビリーフに取り組むことで、萎縮していた自分の気持ちが開け、
イップスが気にならなくなりました。
私は野球を辞めて随分経ってからビリーフの存在を知りましたが、
もし高校生のときに知っていたらどうなっていたかなと楽しみな想像をします。
野球とは関係のない余談になりますが、
私は人にマッサージをするときに力の加減が全くと言っていい程できませんでした。
不思議なくらい力が入らないか、
強すぎる力でマッサージしてしまうかという感じだったのです。
でも、ビリーフに取り組んで以来、力の加減ができるようになりました。
「マッサージは力強く押さなければいけない。」
という考えから自由になったからです。
以上、前編・後編にわたってイップスについて話をしていきました。
いかがでしたでしょうか。もし、あなたがイップスに苦しんでいたら、
何かの役に立てたら嬉しいです。
もし、ビリーフに取り組むことについて興味があれば
下記の記事もぜひ参考にしてください。